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サライ“もうひとつの旬”
日本独自の白い黒麹かびが、甕の中で醸す南蛮渡来の蒸留酒「芋焼酎」

麹かびや酵母などの微生物が醸す酒のアルコール度数は、せいぜい20度。これが蒸留器を通ると、たちまち40度以上の酒になってしたたる。焼酎文化圏では、酒造りを「醸す」ではなく、「垂れる」という。

かび使いの国
「父ちゃんの晩酌の酒は、私が造っとりました」旅先の焼酎文化圏で会ったばあ様は、味噌でも造るような口振りでそう話した。かつて日本の母さんたちは、当たり前のこととして麹かびを繁殖させて糀にし、味噌や醤油、酒や酢も造っていた。有用菌と有害菌の区別はもちろん、どの色のかびが味噌にいいとか、これはうまい酒になるとか、見分けていたというから舌を巻く。古来この国は、目に見えないものたちを飼いならして、旨いものを造らせた、かび使いの国だったのである。


自家有機栽培の食用紅芋コトブキカンショを蒸して仕込む。一般にはアルコール収量の多い白芋を皮ごと使う。手はかかるが評判だ。

焼酎造りの主役
およそ醸造と名のつくものは、すべてかびの力を借りて造られる。日本では、それを一手に引き受けるのが、アスペルギルス・オリゼーという稲穂につく黄麹かびである。ところが暑さに弱く、雑菌にやられやすい。日本酒を雑菌の少ない、寒に仕込むのもそのためだ。たとえ首尾よく酒になっても、醸造酒は、暑い国では長く寝かせられない。焼酎造りの主役は、沖縄育ちの暑さと雑菌に強い黒麹かびである。


麹かびが作ったブドウ糖を、酵母がアルコールと炭酸ガスに変える。もろみに耳を近づけると、ぷちぷちと低くつぶやく音が聞こえる。目に見えない生きものたちの営みの証。

酒垂れ
南九州以南では、酒造りをセータレ、酒垂れという。甕で醸した濁酒を、木桶の甑で蒸してアルコールを蒸発させ、水で冷やすと、焼酎のしずくがぽとりぽとりと垂れる。蒸留酒のアルコール度はせいぜい20度止まりだが、蒸留すれば、40度以上の焼酎原酒になる。焼酎の「酎」は、一度できた酒を何度も再仕込みをして造る、濃い酒のこと。強い酒を手に入れるには、随分手間暇がかかっていた。南蛮渡来の蒸留器は、酒を焼く、つまり蒸留して、たちどころに強い酒「酎」を造りだした。


蒸留器からでてきた酒は、その都度アルコール度を測り、色つやを見、利き酒をする。焼酎のできをチェックするのは杜氏の仕事だ。

仕込み
秋、芋の収穫時期になると、仕込みが始まる。農薬を使わずに自家栽培した食用の紅甘藷を、人海作戦でひとつひとつ皮を剥き、蒸してその日のうちに仕込んでしまう。時間をおくと、芋が酸化して味に響くのだという。麹かびに芋のでんぷんを糖化してもらわないと、酵母によるアルコール醗酵にこぎつけられない。一次仕込みで、あらかじめ麹かびと酵母を充分に繁殖させておく。それに蒸し芋の餌を与えて、本仕込みをする。甕に仕込んだ液をもろみという。「もろみは子供と一緒です。夜中に急に熱を出す。からだが弱いと、餌の芋を与えても消化が悪く、アルコール醗酵がうまくいかないんです。」もろみの良し悪しが、酒のできを決めるという。


1日に仕込む蒸し芋は500貫(1875kg)。25度焼酎の一升びん1000本分。熱々の蒸したて芋を粉砕機にかけ、酒母に混ぜて仕込む。

くせがあるから芋焼酎
蒸留にはふた通り、昔ながらの常圧蒸留と、減圧して低温で蒸留する方法がある。減圧蒸留(低温蒸留)は、雑味の少ないすっきり味に。高温をかける常圧蒸留は、雑味雑香がまざり込んでくせのある芋焼酎になる。くせがあるから芋焼酎なんだ、と断固言い張る酒飲みは、昔ながらの骨太なやつを寝かして、古酒を育んでみてはいかがだろうか。

「サライ 99' 12.16」 記事より
写真:大橋 弘/文:陸田 幸枝



約1000リットル入りの大甕で本仕込み。3日ほど大いに醗酵させ、静まったら蓋をする。さらに1週間醗酵、11日目に蒸留する。



雑草に負けずに育った不揃いの 甘藷。雑草を刈り、蔓を切って 収穫するので、腰の鎌は必需品。


20数人の手を頼んで、掘った 翌朝、洗ってヘタを落として皮 を剥ぐ。先代が紅芋で試作し、 寝かしてあった6年物焼酎の評 判がよかった。今や紅芋の焼酎 は蔵の看板娘。


蒸し米に麹かびをつけて、ひと 甕200kgの米麹と酵母と水 をよく混ぜながら仕込んで酒母 をつくる。6日目に本仕込みする。
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